丸に蔓柏
古来より神道儀式で重要な役割を担ってきたカシワを題材とし、伊勢や熱田の神職が用いた事でも有名な柏紋の一種、家紋・丸に蔓柏。その意味や由来、その他諸々を詳細にご紹介。家系やルーツを探るヒントに。
家紋「丸に蔓柏」は、カシワ紋の一種です。カシワ紋はブナ目ブナ科の「落葉樹」である『カシワ』をモチーフとした紋種で、現在では十大家紋の一つに数えられるほど広く普及しています。
カシワは、その葉がかつて食べ物を盛る器として用いられていたことから、古来より日本人とつながりの深い存在といえました。
こうした古来の習慣は、日本の原始宗教と結びつき、そしてそれはそのまま神道へと受け継がれ、現在でも「大嘗祭」や「新嘗祭」における神饌(供物)の器には、カシワの葉が用いられています。
貴族文化の中へ溶け込んでゆくカシワ
このような経緯から、徐々にカシワを神聖視する見方が育まれ、そうした価値観は(宮中祭祀(皇室神道)を通じたつながりもあってか)朝廷の貴族社会にも広がっていきます。
「冬に枯れた葉が、翌春の新芽の芽吹きまで落葉せずに枝に留まり続ける」というカシワに特有の象徴的な特徴をして「樹木を守る神(葉守の神)が宿っている」と神秘的に解釈されたのも、カシワに対するこのような見方が背景にあってのことでしょうか。
カシワ紋の誕生
こうして彼らに神秘的な印象をもって認知されたカシワは、当時の和歌集や文学作品の題材となるなど、貴族社会でも馴染みの植物の一つとして親しまれ、衣服や調度の文様としても定番化していきました。
伝統的な家紋(紋章)の多くは、古くから社会に定着し親しまれてきた伝統文様から派生するのが一般的でしたが、それはこのカシワ紋も例外ではありませんでした。
神道との関わりの深さが広がりを生む
上述のように、神道はカシワとの結びつきが強い側面があるため、当初のカシワの紋章は、神社・祭神の神紋や、社家の家紋としての使用が主でしたた。
著名な例でいえば
「伊勢神宮の上位神官家系の一つである『久志本』氏」
「熱田神宮の大宮司を世襲した『千秋』氏」
「宗像大社の大宮司を世襲した『宗像』氏」
あたりが挙げられ、他、大小さまざまな社家の使用が見られます。
カシワ紋は徐々に武家(を始めとした諸勢力)にも浸透していきますが、これは単純な信仰の対象(氏神⇔氏子の関係)や、神領・社領(神社勢力の荘園)の代官(現地の実際的な統治の請負)といった「神道勢力との関係性」を通じてのことだと考えられます。
また、先の「新しい葉と入れ替わるまで古い葉が失われない」という習性から『代が途切れない』や("葉" を "覇" に見立てて)「覇を譲る」として『世代交代(跡目)で揉めない』といった『縁起担ぎ』の側面があったことも見逃せないところです。
使用の代表的な武家は(陸奥)葛西氏、(土佐)山内氏、蜂須賀氏(近世以前)、島(清興)氏、(摂津)中川氏、牧野氏などが、公家では中御門家などが知られます。
カシワ紋の広範な普及の要因
当初は公家・武家・寺家・社家といった特権階級に特有の文化・習慣であった家紋ですが、江戸時代に入ると(その時代的背景から)一般庶民にも使用が広がっていくことになります。
ここで新たに家紋を持つ庶民から多くの支持を得た人気家紋(の一つ)であったことが、今日におけるカシワ紋の広い普及につながっているといえます。
多くの人々が家紋にカシワ紋を選択した背景には、すでに全国津々浦々の武家や社家に広く普及していたことから、「『身近な領主』や『地域の氏神』にあやかる」という理由で家紋を選択する層を取り込みやすい状況だったことがまず挙げられます。
さらに武士と同じくカシワの持つ習性に紐づけた「縁起担ぎ」が理由であったケースも十分に考えられます。
カシワ紋の使用から分かること
カシワ紋は、神道と関わりの深い紋章として(当初から)複数の社家の権門クラスによって使用された紋所であるのため、そもそも特定の氏族による専用紋の類ではありません。
※強いて言えば、坂東平氏・良文流の秩父氏の系統(葛西氏・豊島氏など)による氏族ぐるみでの使用の例があるくらいか。
その上、江戸時代以降(上述のように)血縁上の連続性のない使用が急増したことを考えれば、使用家紋の情報のみで「家系のルーツ」を特定するのは難しいタイプの家紋であるといわざるをえないでしょう。
ルーツも苗字も地域もさまざま
カシワ紋を使用する家系の苗字については、こういった普及の規模(十大家紋の一つ)と経緯であるため顕著な偏りは見られず、少なくとも特定の例を挙げるのは難しいという状況といえます。
使用の例は全国各地に見られるが、強いて言うなら「東北南部」に「旧・武蔵国」周辺と、西日本なら大阪が使用の多い地域とされます。
家紋を「丸い枠で囲う」のはナゼ?
『丸に蔓柏』のように、「元となった家紋」の外側を「丸い図形で囲った」例は少なくありません。これは、元となった家紋との「繋がり」を示しつつも、同時に「区別」も表すために施された『変形』の意味合いが強いようです。
かつては、子が元の家から独立する際に、別種の紋章を新たな紋所に据えるケースは稀であり(同族であることを示す意図も含めて)たいていは生家の家紋を引き継ぐというのが一般的でした。また、主人からの紋章(の使用権)の贈与も珍しくなかったようです。
その際、実家や主家との混同を避けるために「元の家紋に変形を加える」という行為が頻繁に行われたようで、そうした時に最も多く施されたのがこの『丸い図形で囲う』だったのです。
また、衣服や調度品に紋を入れる場合、見た目の収まりが良いという理由から『丸い外枠』が付け足され、いつの間にか定着してしまったというケースもあったといいます。
こうした要因から、家紋の「丸に〇〇」の種は、オリジナル(の家紋)に勝るとも劣らない普及率となっているケースも少なくないようで、それはこの『丸に蔓柏』紋も例外ではないようです。
以上が【抱き柏】紋の解説でした。カシワ紋についてさらに詳細に知りたい方は↓こちらから。
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柏紋のフリー画像素材(←発光大王堂・謹製)一覧
【丸に蔓柏】紋のフリー画像素材について
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