三つ割り向かい山桜
家紋『三つ割り向かい山桜』は、バラ科の落葉広葉樹である『サクラ』の花や枝葉をかたどった家紋種類の一群である桜紋の一種です。
サクラは、多くの日本人にとって「観賞花木の王様」の位置づけにあり、その「お花見」の文化は、平安時代ごろから皇族・公家や寺社勢力といった当時の権門(支配)階級によって始まって以来、少しづつその形を変えながら今日まで続いているものです。
桜の家紋の概要
観賞用途のみならず、古代・中世期の当時から文化・習慣の面でも私たちの生活に深く関わってきたサクラですが、詩歌の題材に重用された他、ビジュアル面でも「桜文様」として早くから意匠化され、衣装・調度に広く用いられており、これが後に桜の家紋へとつながっていったようです。
ただ、そうした「圧倒的な認知度」「絶大な存在感」とはうらはらに、家紋としてのサクラは、かなり普及度の低い部類に属していることは注目されるポイントと言えます。
また、今日の私たちが一般的にサクラとして認知している品種は「ソメイヨシノ」ですが、これは19世紀に交配(自然交雑とも)によって誕生した歴史の浅い種であることから、桜の家紋の直接のモチーフではないことにも注意が必要です。
桜の家紋成立の背景となる当時のサクラ文化とは?
古代・中世当時の人々に身近であったサクラは、主に「ヤマザクラ」と「エドヒガン」とされています。
ヤマザクラは、開花と同時に赤茶色の若葉も芽吹くのが大きな特徴であり、京都御所の「左近桜」や、歴史的な桜の名所として浸透している「吉野の桜」は、古来よりこの種であると伝わっています。
エドヒガンは、枝垂れの発生した変種を選抜・定着させた優美な外観の「糸桜」が、寺社や貴族邸宅の庭木、または都の街路樹に広く植栽されたと言います。
また、その「開花時期」から、農繁期の始まりを告げる「田の神」とその信仰に結びついたことで、「種まき桜」や「田打ち桜」として、農村の営みの一部に組み込まれていたようです。
桜の家紋の著名な使用例
桜の家紋の使用の古くには、室町幕府・管領として幕政を主導した『細川頼之』の用いた例があるようです。
また、徳川将軍家の親戚筋(十八松平)の一つである『摂津-尼崎藩主・桜井松平』家(桜井桜)とその庶流の旗本家、さらにこの桜井松平家から養子が入った過去のある「下総-古河藩」と「出羽-上山藩」の藩主家である『藤井松平』氏にも桜紋の使用が見られるようです。
細川幽斎・忠興の親子で知られる『肥後-熊本藩主・細川』家(細川桜)、大久保忠世・忠佐兄弟で知られる『相模-小田原藩主・大久保』家と『但馬-出石藩主・仙石』家は九曜桜紋を使用したと言います。
文様としては重宝しても、家紋としては避ける心理?
しかし、これらの使用例は、いずれも「替紋」「副紋」に留まるものばかりで、桜紋を定紋に据えた例は容易に見当たるものではなく、「寛政重修諸家譜」における記載(つまり江戸幕府直臣による使用実態)を見ても、その使用は(替紋を含めてもなお)20家あまりにとどまっているようです。
モチーフであるサクラの存在の大きさを考えれば、この状況は「意図的に使用を避けた」とも見えますが、やはりこれは、サクラの持つ「散る」「儚い」という側面的なイメージが、(家名の象徴とするには)「不吉」で「縁起が悪い」という心理を惹起させたということなのでしょうか。
※「代表紋としての桜の家紋」が見られるケースは、サクラをイメージさせる(または文字がそのまま含まれる)苗字の家(吉野氏・花木氏・桜井氏など)に多いようです。
意外に豊富な神社の桜紋
反面、神社の紋章である桜の「神紋・社紋」の例は、幾分、豊富な状況と言えそうです。
京都の『平野神社』(八重桜・山桜)、神戸の『生田神社』(八重桜)、宮城塩竈の『塩竈神社』(塩竈桜)などは、境内のサクラに因んだものと言います。
山梨笛吹の『浅間神社』(八重桜)や、山梨富士河口湖の『河口淺間神社』(八重桜)といった「浅間神社」系の一部や、奈良吉野の『吉野神宮」(桜)、石川羽咋(はくい)の『羽咋神社』(山桜)、福岡博多の『櫛田神社』(大和桜)も桜紋の使用で知られます。
また、日本各地に点在する『護国神社』の多くも桜を神紋・社紋に用いているようです。
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