ミシマサイコという作物は、土中に水分が滞留する事に非常に敏感な品種です。水に浸かっている部分の根は、あっという間に腐って無くなってしまいます。畝間に水が溜まるなどもっての外です。
my圃場は、海近くの平野部に位置しているため、山間部に比べて水はけが悪いです。(全く傾斜がないという意味。)おまけに水田が隣接しているため、水が漏り続けるし、地下水位も上昇します。その上、梅雨の時期にもなると、土中から余分な水分が抜け切る前に、降雨により新たな水分が補充される始末。
そこに来て隣の水田が湛水(たんすい)するたびに、水路からつながった空洞やら、土で固めた水口(みなくち)の隙間(わずかですが。)から無慈悲にmy圃場に浸水を繰り返すのです。
根が腐るだけではありません。水分が潤沢であるということは、じっくりとした成長が特徴の『多年生』植物であるミシマサイコにとっての一番の大敵である『一年生』雑草の発生と成育が、ひっきりなしに続くことになります。
※水口とは、田んぼに水を張るときに、用水路から水を引き入れる入口のことをいいます。湛水とは、田んぼに水を張ることです。
こんな状況では愛しいサイコちゃんを守ってやることなど到底出来ません。何か対策を打たなければ。ではどんな手を打つか?
そこで恒例の農業DIYというわけです。今回はどんな自前工作を行ったのでしょう。下記で説明していきます。
今回の問題となっている状況をイメージ付きで説明するよ。
まずは状況を説明しましょう。
これがmy圃場とその周辺の航空写真です。何が問題になっているかを、まるで当事者かのように捉えてもらったほうが共感を得やすいのではないかと考え、関連する要素も書き込んでみました。
‥やりすぎですかね?ま、いいじゃないっすか。以下、航空写真上の「写真撮影の向き」に合わせて撮った写真を交えながら解説します。
まずは「1」の位置から撮影した写真。「本流の用水路」です。隣の水田の管理者は、湛水を行うために「堰板の設置場所」で水をせき止めます。これで水位が上がるので、すぐ横の(隣の水田用の)水口から水を引き入れることが出来るようになります。
具体的に説明すると、このコンクリの切り欠きにせき板をはめ込むことで、水をせき止められます。手前がこの水田の水口です。土地の高さを考えれば、そうとう水位が上がらなければ、水を引き込めないことがわかります。
「写真撮影の向き」は「2」の位置。my圃場に向かって伸びる支流の用水路。奥(my圃場)に向かって緩やかな上り傾斜となっています。ゆえに奥まで用水を到達させるには本流の用水路の水位はちょっとやそっとの深さではいけません。
奥方向の上り傾斜に加え、本流の用水路よりも底上げがされているため、my圃場の水口付近はそれなりの高さになります。
「写真撮影の向き」は「3」。「2」とは反対側。つまりmy圃場側からの写真。上記の位置で水をせき止めると、こちらに流入してきて、やがて水口にまで用水が達します。この支流は撮影者の足元あたりで突き当たりになっているので、どんどん水が溜まっていくのです。つまり隣の水田の湛水作業が終わるまでの数十分から数時間に渡って、水位は上がりっぱなしの状態になります。
my圃場の水口付近は、他の水田のように境界がコンクリートで整備されていません。きちんとした境界線がないので、用水の流出入も整備されているものに比べて、かなりシビアさに欠けます。入りも出もダダ漏れということです。
実はこの圃場も以前は水田で、そうなると水はいくらあっても困りません。隣が水を入れる時に、多少自分のところが浸水したからといって、全く影響のない状態です。むしろちょっとありがたいくらいです。
主要な用水路網から孤立していることも影響していると思います。補助金も出ないので、わざわざ自前で整備するには動機が乏しかったということです。ただ、この圃場をミシマサイコ畑に用途変更してしまうと、事情が変わってきます。
最初に述べたような理由で、これまでのようにただ土で盛っただけの”堤防”では、高さが低かったり、隙間があったりで(モグラさんやケラさんがすぐに穴を開けてしまうのです。)まるで浸水を防ぎきれていないのが現状です。
そりゃ無いよりは全然マシですが、ほんの少量であっても、数時間に渡ってこの状況にさらされると、梅雨時などは湿地帯と見まがうほどの状態に変貌します。
天候や地理的な条件は致し方無いとして、現状の水分過多の状況を少しでも克服するためには、隣の水田からの湧き水を封じることと、しっかりとした堤防を築くことが必要なわけです。
そこでこの水口とその周辺を、モルタルやコンクリートレンガを使って補強しようと言うことです。
実際にどのような作業を行ったか、これもイメージ付きで説明するよ。
ようやく本題です。
まず、従来の土の堤防を削り崩したのち、底を低く平らにします。
水田から湧き出る水を、モルタルを流し込んで地下水路の出口を固めることにより封じます。
モルタルづくりにかかります。まずモルタルの元になるセメントです。
砂です。セメントと砂をいい具合に混ぜて水で溶いたものをモルタルといいます。ちなみにコンクリートは、セメントと砂利をいい感じで混ぜて水で溶いたものをいいます。
適当な容器にセメントと砂を必要量出します。ただ、くれぐれも容器にプラスチック製の底の深いものは用いないようにしましょう。
水を適量加えて混ぜ合わせたものです。案の定、このようなプラスチック製の底の深い容器では混ぜにくくて仕方ありません。
左官ゴテです。この写真では、カメラアングルや光の当たり具合、シャッタースピードなど様々な要素の兼ね合いで、錆びているように見えますが、実際に錆びています。
作ったモルタルを、先ほど掘り下げた部分に流し込んで、左官ゴテで整形します。
自分でも驚きの仕上がりです。人生いろいろあるので、いつの間にやら謎の技術が身についていることって誰にでもありますよね。
次に流し込んだモルタルの上に、コンクリートレンガを積み上げて、新たな堤防の芯の役割を担わせます。目地にはシリコンを使います。シリコンを使う目的は、後で具合が悪くなった時に、すぐに撤去できるように考えてのことです。
モルタルですとガチガチに固まってしまって、鈍器のようなものでハードヒットさせないといけなくなるので。シリコンでは強度に致命的な欠陥が生じますが、どうせ土を盛って、コンクリートレンガごと埋めてしまうので問題ありません。
こんな風にシリコンを塗ります。
相手方にもたっぷりと塗ってやります。
一段目はこんな感じになります。隣のコンクリと、同じ程度の高さまで積み上げたいところです。目標の高さまでコンクリートレンガを積み上げたら、モルタルとシリコンが乾くのを待ちます。
乾くとこんな感じ。
一段目を、モルタルに埋め込むのがポイントです。
遠景です。
さて次は土を盛って堤防にします。適度に土に水を加えて固めながら、どんどん土を盛っていきます。
最後に左官ゴテで表面を整えれば、新しい堤防の完成です。
遠くから見たらこんな感じ。
今回は割と大げさな作業と記事になってしまいました。しかし単に土を盛っただけでは、まるで水の浸入を防げていなかったのだから仕方がありません。マイナス要因は発生する度、徹底して取り除いていく。そうしないと物事を成功に導くことなど出来ないのですから。
さて、シーズンを迎える頃には今回の施策がどれほどの効果を発揮しているのか答えが出ているかと思いますが、それはまた次回以降の記事にて。
※タイトル含め、ここまで色々書きましたが、稲作なのだから水を張るのは仕方のない事で、特に腹を立てているわけではありません。ただの洒落です。他人様が自分の農地で何を栽培しようが、その人の勝手ですし。第一、穀倉地帯のど真ん中で漢方薬を栽培している方が悪いといわれればぐうの音も出ません。ご近所さん、仲良くやりましょう。